小説を読むのは
自分の知らない世界をのぞいてみたいから。
ひとりの凡人に経験できることなんか、高が知れてる。
架空の世界でもなんでも、自分の世界が広がるのは気持ちがいいものだ。
それには、小説を読むのが手っ取り早い。
『プリズン・ドクター』を読んだ。
自分の知らない世界があった。
でも、こちらは作りモノでもなんでもない。
刑務所のお医者さん・おおたわ史絵さんの著書です。
法務省矯正局医師である著者から見た塀の中の出来事がつづられています。
普段見られない世界だけに、興味深いものがあります。
そして、自分には関係ない世界だと思っていたものが、
何だか、地続きで、
そこには、自分も含めた社会問題があると気づかされた。
「人生が平等だなんて、まったくの嘘だ。裕福と貧困、明晰と暗愚、美形と醜悪、この世に生を受けた時点から、人間はすべての不平等の下に置かれている。己の努力によってそれを払拭できるひとなんて、ほんの一握りに過ぎない。みんな、その偏見と差別の下で生きる道を模索するしかないのだ。」
「法律に代表されるたいていの決まりは平均的な人間のレベルで作られている。だから普通以上の能力のあるひとにとってはそれを守って暮らすのは難しいことではない。けれども、そのレベルに満たないひとにとってはその普通がものすごく難儀なものだ。大部分のひとはそのこと自体に気づかない。」
著者の、おおたわ史絵さんがこんなふうに語っています。
そういえば、以前に裁判傍聴をしたときのことを思い出しました。
「放火」の罪に問われた被告でしたが、証言を聞いていてびっくりでした。
自分の部屋の押し入れに火をつけたということ。
理由を問われると、「できるだけ、ひとに迷惑をかけたくなかったから」
自分の部屋なら他の人に迷惑がかかることもないだろうと思ったのか。
放火という事件の中に、こんな事情があったなんて。
ワタシと関係のない出来事とは言い切れない。
地続きの問題なんだと思った瞬間でした。
この本にもそれを感じました。