「人生には後悔してもやり直せないことがたくさんある。そのほとんどは感情のもつれである。特に親子や兄弟姉妹、身近な相手とのこじれほど解決に時間のかかるものはない。どれだけ過去の発言や行動を後悔しても、相手に与えた心の傷は、相手の心に変化がない限り修復できない。」
『コーヒーが冷めないうちに』シリーズの第5巻、『やさしさを忘れぬうちに』の一節です。
「あんなこと言わなければよかった」とか、「もう一度やり直したい」なんてこと、生きていれば必ずありますよね。
とくに、相手が身近な家族などになると厄介ですね。
本当は優しくしたい気持ちがいっぱいなのに、素直に言葉や行動にならないなんてことはいくらでもあります。
相手への期待や甘えもあって、感情が先走ってしまうことがあります。
そんな大切な人とこじれちゃったまま、相手が帰らぬ人になってしまったら・・・。
この小説には、過去に戻れる喫茶店が出てきます。
ある席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという。
第5巻は、『やさしさを忘れぬうちに』というタイトルで、4つの物語が収められています。
「離婚した両親に会いに行く少年の話」
「名前のない子供を抱いた女の話」
「結婚を許してやれなかった父親の話」
「バレンタインチョコを渡せなかった女の話」
どれも、切ないお話しです。
「過去に戻ってどんな努力をしても現実を変えることはできない」
こんなルールもあるのに、それでもやり直したいことって相当に深刻ですね。
自分だったどうなんだろう。
現実は変わらないのに、「やり直したい」って。
これって、このままでは自分が辛くて苦しくて生きていけないのでしょうね。
だから、そこから救われたいと思ってこの喫茶店に来るわけです。
でも、こんな喫茶店は現実にはないし、救われちゃいけないんだと思うんです。
こういう、取り返しのできない出来事を抱えて生きていくのが人生なのだから。
人は、簡単には許されないことをやってしまうものなのです。
やり直したい、という思いを抱えたまま
それでも生きていく。
だからこそ、人間は優しくなれるのかもしれない。