演劇がこんなに大事なものだなんて知りませんでした。
『ともに生きるための演劇 (NHK出版学びのきほん)』を読みました。
「演劇は、人間や世界をリアルに感じるための有効な手段です。そもそも、多様な他者とイメージを共有し、価値観の差異を認め共同体を維持するために生まれた芸術ですから、演劇にはコミュニケーションのノウハウがあふれているのです。」
本の帯に書いたあったプロローグの一部です。
日本では、演劇は趣味程度と見られていますよね。
「大学で演劇をしていた」と言えば、まるで『遊んでいた』『趣味に没頭していた』かのように受け止められ、就職に不利になる時代が長く続いていました。」
本の中で、著者の平田オリザさんがこんなふうに書いています。
まさにその通りですね。
ワタシも大学時代に演劇に没頭している友人をこんなふうに見ていましたから。
でも、世界では様相が違うようです。
「フランスやイギリス、アメリカ、韓国など、世界には、俳優や演出家を目指すための国立の演劇学校、映画や演劇学部のある公立大学が多数存在します。」
「また、演劇はプロの俳優や演出家を目指す人だけのためのものではなく、リベラルアーツ(教養教育)としてすべての人に必要なものだと認識されています。」
このような状況ですから、「演劇教育についていうと、世界のなかで日本は長年周回遅れに甘んじてきました」ということになるのですね。
平田オリザさんは2019年に活動の拠点を兵庫県豊岡市に移し、2021年に誕生した兵庫県立芸術文化観光専門職大学の学長を務めています。
彼が手がけた「対話する力」を育てる授業デザインも素晴らしい。
演劇が私たちの日常生活にこんなに役に立つとは思っていませんでした。
この本の主な内容は次のようになっています。
第一章:「演劇がどのようにして生まれたのか、人間にとって演劇とはなんなのか」
第二章:「日本語の成り立ちについて考える」
第三章:「コミュニケーションにおいて重要な対話についての演劇ワークショップの具体例」
第四章:「対話の必要性と対話の力を鍛える具体的な方法」
読んでわかったことですが、演劇はワタシの想像以上に力を持っている、ということ。
羨ましいのは、豊岡市の子どもたちが演劇や大道芸人のパフォーマンスを楽しんでいることです。
そういうチャンスがあるってことです。
日本人は「エンパシー」を持つのが苦手だと言われるとか。
「エンパシー/共感する力は、異なる他者を理解するための、行為、態度、あるいは想像力です。」
「エンパシーを持ち、社会にも広めてゆくには、できるだけ多くの他者、異なる価値観を持つ他者と出会う体験を繰り返すことが必要です。
そして、異なる他者と出会うことで、何か新しいことを生み出す喜びを繰り返し経験することです。
その光明は、演劇にあると私は考えています。」
なるほど、納得です。
豊岡市の子どもたちが羨ましいです。
平田オリザさんは学長に就任したときに、「どんな人を育てたいか?」と訊かれて、
「楽しく共同体を作れる人」と答えたそうです。
「ここにどんなに多様な価値観が集まったとしても、それぞれの価値観を認めあいながら、対話をあきらめず、問題を解決して、楽しく共同体を作っていける自立した一人ひとりを育てたい。」
ワタシもそういう人になりたいと思いました。