「本屋さんになりたいな。」
街の本屋さんがどんどん姿を消して行く状況の中、こんなことを言ったら、
「なに、夢みたいなことを言ってるんだ!」と言われそうですが。
これが『ようこそ、ヒュナム洞書店へ 』を読んだ後のワタシの素直な感想です。
2024年の本屋大賞(翻訳小説部門)第1位です。
全国の書店員さんの多くが「売りたい本」として選んだのもわかります。
まず、表紙の絵を見た瞬間に引き込まれました。
こんな本屋さんがあったら必ず立ち寄ります!
この本はソウル市内にある小さな本屋さんが舞台です。
会社を辞めたヨンジュと、彼女が立ち上げたこの書店にやってくる人々が描かれています。
みんなそれぞれ思いや悩みをかかえて生きているのがわかる。
小説というよりも日常のスケッチって感じですね。
「映画『かもめ食堂』や『リトル・フォレスト』のような雰囲気の小説を書きたかった。」
と、著者のファン・ボルムさんが「作者のことば」としてあとがきに書いていました。
それ、伝わってきました。
この本を読んでいると、本にまつわるいいセリフがたくさん出てくるんですよ。
「小説は、自分だけの感情から抜け出して他人の感情に寄り添えるところが良い。」(P.28)
「本の中には、自分の狭い経験では到底知り得なかった世界の苦痛があふれています。それまで見えていなかった苦痛が見えるようになるわけです。誰かの苦痛がひしひしと感じられるのに、自分の成功、自分のしあわせだけを追い求めるわけにいかなくなる。だから、本を読むと、いわゆる成功からはむしろ遠ざかるようになると思うんです。本はわたしたちを誰かの前や上には立たせてくれません。その代わり、そばに立てるようにしてくれる気がします。」(P.53)
「ある物語が、選択の岐路に立った自分を後押ししてくれている気がするんです。何かを選択するとき、その根底にはたいてい自分がそれまでに読んだ本があるということです。」(P.55)
「本を読んでみたら、わかることがある。著者たちもみんな井戸に落ちたことのある人なんだってこと。ついさっき這い出してきた人もいれば、ずいぶん前に出てきた人もいて。で、みんな同じこと言ってる気がするの。この先また井戸に落ちることになるだろうって」「人間って自分だけが苦しいんじゃないって気づくだけでも、がんばれるの。自分だけが苦しいんだって思ってたけど、実はあの人たちもみんな苦しんでるんだな、って。」(p.189)
「気持ちがすっきりするのだけが良いことじゃない。複雑なら複雑なまま、モヤモヤするならモヤモヤしたまま、その状態に耐えながら考え続けないといけないときもある」(P.272)
「いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生なんだって。社会的には成功できなかったとしても、一日一日、充実した毎日を送ることができるんだ、その人たちのおかげで」(P.320)
「自分が本を愛し、書店のスタッフが本を愛するなら、その愛は客にも伝わるのではないだろうか。自分たち四人が本でコミュニケーションし、本で冗談を言い、本で友情を深め、本で出会いをつないでいくなら、客も自分たちの思いをわかってくれるのではないだろうか。本を読む人だけが生み出せる「空気」がヒュナム洞書店からあふれ出せば、人々も一度くらいは本を開いてみるのではないだろうか。日々を生きる中でふと物語が必要になったときに人々が本を見つけられるように、ヨンジュはこれからも本を読み、本を紹介しながら生きていきたいと思った。」(P.354)
「好書好日」(朝日新聞2024年6月8日掲載)にこんな表現がありました。
「私は本を読まない人といる時と、本を読む人といる時、まったく違う世界にいる気分になる。」
ワタシも同じように思っていました。
本を読む人と本を読まない人はどこかが何かが違うような気がしていました。
ワタシも本を読む人と一緒にいたいと思う人のひとりです。
