どんな職業も、自分が就いてみないとわからないもので、
医者も例外じゃないですよね。
一般人のワタシでも、病気になればお世話になりますから、
それなりに医者との付き合いがあるわけです。
そうすると、外から見てもある程度は想像がつくものです。
それでも、どんな職業でもなってみないとわからないことってあります。
医者といえば、高給取りで社会的にも世間から一目置かれていい身分って感じです。
それでも、勤務医なんかは忙しくてお金を使う暇がないなんて話も漏れ聞こえてきます。
そんな医者のリアルな世界もちょっとは覗いてみたいもの。
南杏子さんの『ディア・ペイシェント 絆のカルテ (幻冬舎文庫)』を読みました。
これは、すでにNHKでドラマ化されていたんですね。
ドラマの方は見逃してしまって残念に思っていました。
でも、原作本かドラマか?といったら、原作本から入るタイプなのでオッケーです。
主人公は30代半ばの女性医師です。
民間総合病院の勤務医です。
彼女の仕事や葛藤がリアルに描かれていて引き込まれます。
「この物語を読み始めてから、しばらくはとても不快だった。」
こんなふうに「あとがき」に書いているのは、医師で作家の中山裕次郎氏です。
「同業者として医者目線で読むと、そのあまりのリアルさに日々の診療を思い出す」から。
特に、若い医者は大変そう。さらに大変なのが女性医師だと思います。
あるテレビ番組で、若い勤務医が「なんで医者になったんですか?」と尋ねられ、
「う~ん」と考え込んでしまって、その後の言葉が出てこなかったシーンを思い出しました。
この医師も最初は夢や希望があったのでしょう。
しかし、毎日の激務にそんなこともどこかへ吹っ飛んでしまったのかもしれません。
それが、今の若い医師のリアルなんだろうと推察しました。
責任が重く過酷なだけで報われない仕事
医師という仕事が、こんなふうに思われてしまったら誰も得をしません。
身近に医療従事者がいたりすると、この本も読んでいて苦しいかもしれません。
でも、最後には爽やかな気持ちになれました。
「だから、治すための医療だけじゃなくて、幸せに生きるための医療を考えてきた。たとえ病気があっても、その病と共存して、最後まで心地よく生きられるような治療を誠実にやってきた。その先に死があっても、それは受け入れる」
「ささやかな医療であっても、誠実ならばその気持ちは必ず患者に伝わる。愚鈍に見えても、いつかそれが王道だと知ってもらえる。誤解を生んでも、時を超えて理解されるときがくる。力不足だったという経験を糧に、精進すればいい。最初から完璧な医師なんていないんだから」
こういう言葉が胸に迫りました。
どんな職業にも通じるものなのかもしれません。
「誠実であり続けよう。温かい言葉で満たそう。」
ワタシも同じ気持ちになれました。
とても穏やかな気持ちで最後のページを閉じました。